恐竜の復元をしよう
恐竜の復元をしてからファンシーグッズを作っています。どうして恐竜の復元をするようになってしまったのかをお伝えすることで、復元をするとはどういうこと?恐竜の絵(図鑑など)を見て描くのとどう違うの?を考えられたら良いかなと思います。
私の恐竜(トリケラトプス)の復元
2018年に恐竜博士の小林快次さんにどハマりして書籍を買い漁り、恐竜博士の本を理解する為に恐竜知識が増えていくことにより恐竜博士沼から古生物沼に入り込み、今のファンシーグッズ制作に繋がるのですが、そもそもの発端はこうです。
恐竜の本は挿絵がちょっと変な(私の知っている美術の基本の文法で描かれていない、誰かの復元した物を写して描いたばかりに大事なところの説明が疎かになっている、鱗など細かいところを執拗に追っており全体の立体感が破綻して気持ちが悪い)ものが多く、絵に悪酔いしてしまい、これを見ていると情報を間違えて認識してしまうし、そもそも上手じゃない絵は嫌いである!古生物は復元物で無く、そもそもの化石資料以外は信ずるに値せぬ!と気がつき、科博に通い化石の復元骨格をスケッチをすることにしました。
科博の地下には恐竜の展示室があり、狭いエリアに所狭しと恐竜の全身骨格などが展示されています。有名なティラノサウルスなども展示されていますが、ちょっと変わった復元姿勢なので、恐竜を初めて観察する初心者にはこれがオーソドックスであると理解しやすい姿勢で、かつ骨格が見やすい恐竜が最初のスケッチには適しているはず…と考えて展示室を見ると、ちょっとガタガタしている(のちに知ったのですが、複数の別個体の骨を組み合わせて復元された、コンポジットの全身骨格が展示されているので、微妙にガタガタしているということのようです。)けれど、一個体として把握しやすく、壁面に同種で骨格が連なった状態の化石の展示もされている恐竜がトリケラトプスでした。
恐竜を描いてみる
科博に展示されているトリケラトプスは、復元をする時に役に立つ全身の組み立て骨格と半身の交連骨格標本が揃っている事がとても良く、わからなくなったら科博にスケッチに行きました。スケッチに行ってもよくわからない全体の骨のスケールは骨格図の本「The PRINCETON FIELD GUIDE to DINOSAURS」(グレゴリー・ポール著)を見て平面の位置を確認して、とスケッチと骨格図を行ったり来たり繰り返して描いています。それでも形が把握できない時は粘土で形を取ってみたり、中と外(骨格と肉付けした体)を行ったり来たりしながら復元していました。(現在はG.Masukawaさんの描いている骨格図を使うことが多いです、理由はどの化石を元にしているかを教えていただけるからです。)
最初のトリケラトプス の復元画はまだ恐竜に対しての知識が乏しかったので、今みると「そうではないな。絵としては自然だけれども。」という感想を抱きます。(私のinstagramを遡っていただくと2018年10月ごろに最初のトリケラトプスの復元画を描いているので、お分かり頂けるかと思います。)
恐竜の復元を描いてみてわかる事
今生きている生き物を描いたり、作ったりすることが得意です。
美術をやっていると、人間を描くことが得意な人、風景を描くことが得意な人、工業製品を描くことが得意な人、抽象的な世界を描くことが得意な人、いろいろタイプがありますが、その中で私は生き物全般を作る描くのが得意な人ということです。
生き物を描くのが得意な人という時に、生き物をみて描くのが得意な人と、もう既に誰かが描いている生き物を見て描くのが得意な人という2タイプに分かれることに気がついている人は少ないと思います。
日本人なので日本画で想像してみると分かりやすいと思います。日本画の動物は、身近にいる生き物、例えば鶏や鯉などはリアルに描いている物や、作者の拘って観察した場所がわかりやすく描かれている物があると思います。見た事の無い生き物を描いている日本画の作品もわかると思います。トラや象など江戸時代の絵画では見たことの無い物を、誰か(この場合師匠)の描いたものを模して描くことが主流の時代には、当たり前の行為として平面化されたものをそのまま模して描いています。
恐竜の復元画を描く世界は、日本画の伝統の世界に近いところがあると思います。[補足:外国でも同じで古い絵画は師匠の工房作品となるので同じように描かれ、制作されています]
平面化されたもの(復元されたもの)をもとにして絵を描くことが自然の成り立ちとして(修業の世界、絵の修練の世界)そこにあるの日本画なので、恐竜の復元をする世界として考えると、一括りにそうとは言えないのですが、恐竜の復元物を見て恐竜の復元画を描く世界があるところは日本画と似ているなぁと思います。私は、そういう平面としてではなく化石を見た時に感じる体のサイズ感や、量感、がしっくりくる絵画が少ないので、そこを見たくて復元しています。誰かがやっている復元を見て描いたとしても納得がいかないので、自分で考えて1から復元しないといけません。恐竜のフィギュアを見て描いているから、平面から写している訳ではないという作品も割とよく目にしますが、その場合も小さいものを見て描いているので私から見ると一目瞭然というか、こうは見えないな…という違和感がついて回るのです。なので、模型を見て描くのも私としては微妙です。自分で模型を作る行為は全体を把握するためにやった方がいいと思いますが。
恐竜の形は結局よくわからない
恐竜の復元画は科学的に研究者の監修が入っているものもあります。その場合はある程度研究者の考えが反映されていると考えても良いと思います。ただ、ここ数年研究者の方とお話ししていて「本当の姿なんて絶対わからない」という当たり前のことが当たり前として横たわっているので、「骨の比率は合わせて欲しいけど、それ以上は好みの問題」という感じでした。ただ好みの問題として描く場合でもこちら側は恐竜の資料を調べて、同じ系統の近縁の恐竜には羽毛の痕跡が見つかっているので、この恐竜にも羽毛をはやしてあります。などと説明をしたりする感じです。
骨の情報は化石で全身が見つかっている恐竜であれば分かりますが、外側の形はわからないものが多いです、化石として稀に皮膚が残った状態のミイラ化石と言われるものが見つかる場合や、鱗や羽毛の印章化石が見つかることも有ります。そういうレアなケースを除いて恐竜の外側の形を知ることはできません。図鑑に載っている恐竜の化石がどの程度見つかっているものなのかを調べてみると面白いと思います。復元画家の方の苦労が窺い知れるかと。
恐竜の復元をしてみて分かったこと
恐竜の研究が進むほど、新しい恐竜も見つかるし、新しい情報も出てきます。化石の形からの情報が一番形を追うためにわかりやすい情報なので、化石を観ることがとても大事です。見つかっている化石が多く、個体差なのかそうでは無いのか、大人か子供か、などたくさん見つかっている種類の化石をぼんやり観察していると、それらの情報が立体的に組み上がってくる感覚があります。ぼんやり覚えておくことがとても大事です。
誰もみたことのない生き物を描くので、今生きている生き物を描くよりも、真摯に向き合わないとダメだということ、(今いる生き物を描く場合、描けていないと、見る人がすぐにおかしいと気がついてくれるので、確認の目が沢山あって助かります)自分に嘘をつかないように描くことが大事だとわかりました。絵を描く際には誰より自分を疑って描いていますが、恐竜の復元はより一層疑って、しかも誰も正解がわからないので、生き物として、絵画表現として、おかしくならないようにとても気を遣います。
恐竜のファンシーグッズが欲しいだけでしたが、現生の生物のファンシーグッズを作るのと訳が違います。恐竜のファンシーグッズを作るには、その恐竜の仲間やその恐竜の復元をしてからでないと、デフォルメができないということがはっきりしました。図鑑などの絵は、その絵の作者がみている恐竜の形なので、私がその化石を見た時に同じものが見えると限らないからです。そして、図鑑の絵はぐるっと全体を描いてある訳ではないので、反対側がどうなっているのか?などもわかりませんから、博物館のホームページなどへ行き化石の資料がないかを探します。
とにかく、自分で調べて描かないとダメだという事が、やればやるほどハッキリしてくる、それが恐竜の絵を描くという事でした。
自分の目で見た恐竜の形を描くことができるので、復元画を描くのは面白いと思います。
おまけ
リアルな復元の画像で描き進めている途中のものを紹介しようと思いましたが、真面目すぎて面白くないので、先にファンシーな復元のものをこちらでお見せして、次の機会に復元画を描いている工程を少しずつまとめようと思います。